オーボエ雑学

第2章 
チャルメラ、篳篥、そしてオーボエ。 

オーボエの遠い祖先、そして親戚たち

「自分はチャルメラ吹きですから〜」

などと謙遜して語る人がいたら、それはプロでもアマチュアでもオーボエ奏者に間違いありません。音色までそっくりかどうかは腕前によりけりですが(失礼!)、音が出る仕組みの点で、チャルメラとオーボエは親戚にあたります。分類上の名称はダブルリード属。発音にまつわる物理的現象の説明は音響学の本におまかせするとして、試しに薄いメモ用紙を2枚重ねて、唇の間にそっと挟んで息を吹き込んでみてください。思いのほか高い振動音がビーッと響くはず。ごく簡単にいえば、これがダブルリードの原理です。

古代ギリシャで各種の儀式に用いられていた葦笛のアウロスもダブルリード属の楽器。オーボエの遠い祖先にあたります。目を中東に向ければ古代ペルシャにソルナという、先端部分が大きく弧を描いてふくらんだ楽器が存在していました。これが歴史を下ると共に近隣地域へ伝わり、たとえばトルコなどの西アジア諸国ではズルナ、インドではシャハナイ、中国ではスオナの名のもと、民族楽器として居場所を見出していきます。

かたや日本にも、固有の進化を遂げたダブルリード属の楽器があります。雅楽の世界でおなじみですね。燻した竹材で作る管体に舌(ぜつ)と呼ばれる葦製のリードを差し込んで演奏する、篳篥(ひちりき)。その舌の原料となる葦の産地はごく限られており、琵琶湖周辺や淀川近辺(特に”鵜殿のよし原”と呼ばれる一帯)でしか良質のものがとれません。某演奏家から聞いた話では、同地から取り寄せた葦でオーボエのリードを作ってみたところ、「何とも形容のできない音がした」とのこと。まさに所変われば品変わる……。

オーボエの誕生

話をチャルメラに戻しましょう。この呼び名は本来、16世紀後半にポルトガル人が日本に伝えたチャラメラという楽器に由来し、それが相前後する時期に中国から入ってきたスオナにもあてはめられたという経緯があります。そのチャラメラの語源にも諸説ありますが、最も有力なのは”葦”を意味するギリシャ語”カラモス”、ないしはラテン語”カラムス”からなまって定着したというもの。

やはり同じ言葉から派生した、ショームという名称を抱くダブルリード属の楽器が、13世紀頃からヨーロッパ各地で軍楽隊やダンス音楽のコンソート(合奏体)に用いられていました。十字軍の遠征を契機として中東の地からもたらされたソルナや、トルコのズルナからの影響を受けて成立し、発展を遂げたショーム。これがオーボエの直接的な祖先とされる存在です。ちなみにオーボエに地位を明け渡してからもショームは消え去ってしまったわけではなく、その原型をとどめたままキーを装備するなど改良の手を加えた楽器が、スペインなどでは今なお民族楽器のバンドで活躍したりしています。

木幡一誠(Issay KOHATA)

音楽ライター。1987年より管楽器専門誌「パイパーズ」(2023年4月号で休刊)で取材・執筆にあたり、現在各種音楽媒体のインタビュー記事、CDやコンサートの曲目解説執筆およびレビュー、さらには翻訳と幅広く活動中。

Page Top